中国歴史小説と幻想的な恋の話


「源じいさんの愛した女」 第11話 ものの哀れ

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 やはり仕事が一番と気がついたわしは、自分の商売に集中した。終戦後十年たって、店の規模も従業員の数も戦争前の倍以上になり、わしの髪に白い物が目立ってきた。
子供も中学生になっていたから、当たり前と言えばそれまでだが、冴が少しも歳を取らないことが不思議な気がした。

 冴が子供に習字を教えているのを見て驚いたよ。わしにさえ冴の書く字がそこらで教えている先生など、足元にも及ばないような、えも言われぬ品格があるのがわかるんだ。
子供が学校で習ってくる百人一首などすらすらと暗唱したり、わしが聞いたこともない古今和歌集などの歌を教えていた。それまで仕事ばかりして来て、冴の事をまったく知らない事に気づいたんだ。

 考えてみれば、借金もないのに女郎部屋で体を売っていた事も不思議だった。御守のことも偶然にしては出来すぎた話だった。しかし、そんな考えも冴のいつまでも変わらない白い肌を抱きしめてしまうと、嘘のように忘れてしまった。

 そういえばわしは冴以外の女の体を抱いた事がなかった。不思議な事に抱きたいとも思わなかった。むしろ、一向に歳をとらない冴の体に溺れていたと言う方が正しかった。
 
 しかし、人間と言うのは一度やった間違いを何度でも繰り返すもんだな。あれほど後悔したにも拘らず、今度は株が儲かると言う話を聞けば、最初は小遣い程度の金で株を買っていたのが、見ている間に値上がりするものだから、欲が出てきて、どんどん投資するようになって行った。

 買えば値上がりして、売れば儲かると思うから、身の回りの金を全て株に注ぎ込むようになっていた。そしてそれがまた値上がりしたものだから、前後の見境もなく、会社の金まで注ぎ込み、信用取引まで手を出していた。
やがて株の暴落が突然起きて、気がついたら、信じられないような借金を抱えていたんだ。

 青い顔をして、家屋敷を売って借金の返済に充てると冴に告げると、冴は顔色一つ変えず、以前の買った古美術品を出して来た。
これを売れば取り敢えず必要な金は出来るでしょうと言うのだ。

 言われた通りに売りに出してみると、返済しなければならない金利の分だけは返すことが出来た。あれほど自分の愚かさを罵りながらも、結局は冴に助けられると、感謝することも忘れ、一種の恐れを抱くようになっていた。

 返さなければならない借金は山のように残っていた。また一からの出直しのつもりで必死に仕事をしたよ。昔、一日でも早く冴を身請けしようと働いた時のように、朝は日の出前から、夜は深夜まで働いた。石油ストーブが家庭に普及し始めた頃だったから、ガソリンよりも石油の配達のほうが忙しかった。

 冴は借金の返済の助けになればと言って、自宅を改造して小料理屋を開いたんだ。水商売のほうは手慣れたものだから繁盛してな。 歳は四十を越えているはずなのに、どうみても二十歳そこそこにしか見えないものだから、冴目当ての客が引きも切らなかった。

 どこで覚えたのか知らないが、冴の作る料理がまるで懐石料理みたいでな。花を活け、香を焚いたりして、店は小さいが、一流の料亭のようだった。

 冴の話も、今までわしと話した事もないような、源氏物語や枕草子の話まで平気でするものだから、大学の先生や芸術家までが足繁く通って来る立川ではちょっと有名な店になったんだ。

 しかし、わしはちっとも面白くなかった。冴がわしの知らない世界で楽しくやっているようで、どうも心が穏やかでいられなかった。今にして思えば、冴に嫉妬していたんだな。なにせ尋常小学校しか出ていないわしに、冴の話すものの哀れを理解することが出来なかった。

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by shou20031 | 2005-02-20 00:01 | 大人のメルヘン

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