印象派のアメリカ人女流画家
メアリーカサット
彼女はドガの愛人でもあった。
印象派をアメリカに紹介した功績は大きい
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私はそれで源じいさんの話は忘れてしまい。彼女に大学病院の様子を尋ねた。
「西脇教授が医療機器の購入の問題で今警察に取り調べを受けているらしいわ」
紗絵の話す病院の様子を聞きながら、あの時やはり教授の娘の縁談を断って良かったと思っていた。大学病院は大量の薬や巨額の医療機器の購入に伴い、とにかく贈収賄の噂がつきまとう職場であった。業者の接待で香港や台湾旅行に出掛けるのはほとんど常識のような世界であった。
「俺、大学病院に戻るのを諦めようと思っている」
「どうして」
紗絵は驚いたように箸を止めて私を見つめた。
「この三年間、外に出てみてつくづく感じた事は、大学病院が民間医療とあまりに乖離している状況さ。象牙の塔とは良く言ったものだよ。本来研究されなければならない民間医療の在り方など、大学病院では見向きもされない。ただひたすら学会で注目を集める研究論文を作る為の世界さ」
私は自分で話しながら、もう大学病院に戻れない諦めを感じていた。あれほど憧れていた研究の世界から締め出された苛立ちが、時間と言う流れの中で諦めと言う気持ちに変わっていた。
食事を終え、彼女が風呂から上がると、どちらからと言うともなく部屋の明かりを消して抱き合っていた。柔らかな紗絵の胸に顔を埋めながら、彼女の呟くようなため息を聞いていた。激しくなる紗絵の息使いとともに、彼女の白い胸に梅の花に似た痣が鮮やかに赤くなっていた。
「俺と結婚してくれないか」
激しい愛撫の後の虚脱感の中で、私は何度目かのプロポーズをした。
「ありがとう」
紗絵はそう言っただけで、茜色の蛍のような豆電球の光を見つめていた。
「紗絵。俺達こうして抱き合っているのと、結婚するのと何が違うのだい。大学病院に戻らないと決めたからには、どうしても紗絵の支えが必要なんだ。俺の事を本当に心配してくれているのなら結婚してくれないか」
私は天井を見つめている紗絵に話し続けていた。この三年紗絵は病院が非番になると私の部屋を訪れていた。それは紗絵にとっても私が大切な存在だからだと信じていた。
「大学病院を出てしまえば、もう教授とのこねの心配もいらない。君が私の結婚を断る理由もなくなる。むしろ自分で小さな診療所を持つようになれば、君の協力なくしてやって行けない」
紗絵は私を見つめると、優しく唇を重ねてきた。彼女の豊かな胸が私の胸の上で気持ちよく潰れた。
「ありがとう。私も一緒になるならあなた以外の人は考えられないわ。でも女が結婚を考えるとしたら、色々な事を考えなければならないの。返事をするのにもう少し時間を下さい」
紗絵の口から初めて結婚の言葉が聞かれた。
「じゃあ。考えてくれるのだね」
私は彼女が自分の申し込みを受け入れてくれる事を信じて疑わなかった。
「そろそろ帰るわ」
紗絵は私の言葉に何も答えずにベットを抜け出してバスルームに向った。彼女の白い背中を見つめながら源じいさんの話を思い出していた。