中国歴史小説と幻想的な恋の話


「源じいさんの愛した女」 第2話 運命の出会い

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 元気な頃の源じいさんは孫のような歳の私が来ると、ご苦労さんと言って、山で採れた山菜や岩魚を肴に、酒を一緒に日の暮れるのを忘れて飲んだ。

「わしが初めて立川の街に出たのは、尋常小学校を出て薪炭問屋に奉公に上がった十二の歳だった。

 駅の周りに店はあったが、今では想像も出来ないほど小さな街だった。毎日青梅や五日市から運ばれてくる炭や薪の上げ下ろしで顔が真っ黒になるまで働いた。朝起きて夕方飯を食うまで働き詰めの生活だったが、当時はそれが当たり前でな。盆と正月に小遣いを貰って日野の実家に帰るのが嬉しくてな。
 
 貧乏な水呑み百姓だった家は、俺の小遣いでさえ大金で、お袋が手を合わせて喜んでくれたよ。お金を貯めると言う事がこんなにも親を喜ばせるのかと思うと、時々菓子を買う金も貯めて、里帰りの時に持って帰るようになった。

 やがて七人兄弟が皆奉公に出て行くと、生活も楽になって来たらしく、お袋に自分の為に貯金しろと言われてな」
 私はその時初めて源じいさんの生い立ちの話を聞いた。元気な時の源じいさんは山や畑の話ばかりで自分の事は一切話さず、それでいて私の話ばかり聞きたがった。

「十八の歳に手代になってね。番頭さんに祝いだと言われて、女郎屋に連れていかれて、生まれて初めて女を抱いた。毎日真っ黒になって仕事をしていても、十五、六になれば女に興味が湧いて来て、毎晩見たこともない女の裸を想像していたもんだ。
 
 その晩、真っ白で吸い込まれそうな肌に触れただけで行ってしまったよ。部屋に入った時は、相手の顔も見られない程緊張していたのが、一回抱いてしまえば腹も据わり、相手の顔を見る余裕も出て来た。

 世の中には本当に運命と言うのがあると思ったよ。相手の女がどうしてこんな所で体を売っているのかと思うような美人だったんで、思わず自分の目を擦ったほどだった。ああ言う場所で相手の身の上話を聞くのは野暮だなんて知りもしなかった。
 
 その女はわしの体をそっと押し倒して、わしの野暮な振る舞いを体で教えてくれた。初めての女だったから、その女に惚れてしまった。わしは朝まで、その女の豊かな胸に顔を埋めるように、何度もしつこく求めたが、嫌な顔一つしないで応じてくれた。別れ際に冴と言う名前を忘れないように頭に焼き付けたよ。

 朝、番頭さんと二人で店に向う途中、悪いね不細工な相手を選ばせて、手代さんが初めてだって言うから惚れちゃいけないと思ってね。敢えて、不細工な女を手代さんに選んだのだよと言うのさ。あんな綺麗な人を選んでくれてお礼を言おうと思っていたのに、不細工で悪かったねと謝られたんで、人によってはああ言う女を不細工と言うのかと思って、不思議に思っていたんだ。

 手代になれば少ないけれど、月々の手当てが出るようになってな。なんとか遣り繰りすれば冴と言う女の所へ行けるんだ。とにかく冴に会いたくて、小遣い欲しさに人の二倍も三倍も働いたよ。昼は薪や炭を運んで、夜は近所の料理屋の手伝いまでした。
 
 若かったから、随分と体に無理も利いた。ところが冴のほうが、薪炭問屋の手代が毎月のように自分を買いにこれるわけがないと疑ったんだ。通い始めて半年たった夜、いそいそと出掛けたわしの前で、膝も崩さずに冴は言った。

 私は所詮買われるのが仕事だから、律儀に私だけを買ってくれるあなたに文句を言うのは可笑しいけれど、薪炭問屋の手代さんが毎月ここに来るのは、何か良くない事でもしていなければ来れないはずと、心底心配した顔で尋ねるんだ。

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by shou20031 | 2005-02-11 15:28 | 大人のメルヘン

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