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中国歴史小説と幻想的な恋の話


「呉子」無敗の将軍 若き日の呉子 Vol.16 斉軍との戦い

「呉起よ。厳しい戦いであろうが斉軍を打ち払ってまいれ」
 宮殿にて元公より呉起は将軍任命の言葉を賜った。
「身命に誓って、斉軍を打ち払います」
 呉起の心は李香を失った悲しみを乗り越えて斉との戦いで一杯になっていた。
「私の代わりにこれを持て」
 元公より呉起に斧と印綬が手渡された。

呉起は宮殿の前から一軍の将軍として戦車に乗り込んだ。
太鼓が打ち鳴らされ呉起を先頭に曲阜の城門を出て沂水と泍水の間に広がる地に向って軍を進めた。

 呉起は超耳を隊長として鄆の守備隊五百を国境の山中に伏せさた。斉の国には呉起は伏兵を得意とする奇策の将であるとか、夜襲を必ず仕掛けてくると噂を流しておいた。

 超耳は斉軍が野営すると、深夜に突然太鼓を叩き、声を上げさせ、松明を持って山中を移動させた。斉軍は噂通り、夜襲なのかと驚いて眠ることが出来なかった。

 二日目は斉軍が夜襲を警戒して深夜まで焚き火を高々と燃やしているのを見て、最も眠くなる明け方直前に太鼓を打ち鳴らし鬨の声を上げさせた。眠りに落ちたばかりの斉兵は叩き起こされ慌しく武具を身につけた。

 三日目斉軍は梁山の麓で魯軍の本隊と遭遇した。

 呉起が得た情報によれば、斉軍の将軍田頼(でんらい)は才能豊かで、将として将来を期待されているという。今回は三軍もの兵を率いて田頼が勝利に拘り過ぎていると許駿から連絡があった。大軍をもって戦う場合は、正攻法で戦い、適当なところで和議を行うのが常であった。

 呉起の目の前には斉の旗が青空を埋めるように林立していた。
 呉起が陣を敷いた地は一軍の兵を展開するには十分な広さであるが、沂水とその支流に挟まれて、三軍の兵を展開するほどの広さはなかった。斉軍はやむを得ず右軍を正面に、その後ろに左軍と、そして中軍と三軍を布陣した。

 魯軍、斉軍合わせて五万人の兵士達がお互いの表情も読み取れるほど僅かな空間を間に睨み合っていた。
 晩秋の太陽が昇り始め、兵士達の額に汗が滲み始めた頃、両軍の太鼓が打ち鳴らされ矢が放たれた。

「いいか出来るだけ早く矢を番えよ。一番多く矢を射た者には褒美が与えられるぞ」
 李克は部下に向って大声で命じた。弩と言われる石弓の部隊五千が三段に分かれて田頼の部隊へ矢を射った。魯軍の矢は斉軍の兵に雨のように降り注ぎ次々と兵士が倒れた。斉軍も矢を放つが半弓の為、魯軍の手前で落ちてしまった。
 呉起は三倍の兵と戦う為、兵を損なうことなく、敵を倒す事が出来る、石弓部隊を主力とした部隊編成を行った。石弓は弩(ど)とも呼ぶ。盾をも貫く強力な兵器であった。

「あの石弓の陣を崩せ」
 田頼は戦車を先頭に突撃を命じた。
「良いか、我慢しろ。出来るだけ引き付けて馬を打て」
 李克は三人掛かりで扱わなければならない巨大な石弓二百を戦車に向けて放った。激しい羽音を立てた二百の矢が馬や兵士に突き立った。斉兵はその羽音に驚く間もなく倒れた。

 一瞬にして十数台の戦車が転倒していた。

 魯軍に到達出来たのは五十台の馬車のうち僅か数台のみであった。
戦いは始まって間もないが、斉軍の陣地には累々と死体が横たわっていた。

 突然、太鼓が激しく打ち鳴らされた。
 斉軍の右軍全軍が魯軍に向って駆け足で進軍した。魯軍は押し寄せる斉軍に対して石弓を放った。斉軍は盾を掲げて矢を防ごうとしたが、魯軍の矢は斉の盾を打ち抜いて兵を倒した。

 魯軍の前に斉兵の屍が次々と横たわる恐るべき殺人劇が続けられていた。斉兵は矢に撃ち倒される為だけに前進して屍の上に屍を重ねた。
 矢羽のたてる音と悲鳴が絶え間なく聞こえ、やがて恐怖に耐えられない兵士達が前線を逃亡して、見方の陣に雪崩込み斉の右軍は混乱に陥った。

 既に太陽は中天に達していた。
 斉軍で太鼓が打ち鳴らされ、右軍と左軍が入れ替わった。夥しい数の兵士の死体が横たわり、傷付いた兵士の呻き声がまるで唄のように聞こえた。

 新たな斉軍の太鼓の音と共に左軍は盾を三枚重ねて前進を始めた。魯軍の放つ矢が音を立てて盾に突き刺さった。斉兵は矢に射られることもなく魯軍の陣地に近づいて行った。

 呉起が手を上げると今度は魯軍の太鼓が打ち鳴らされた。

 石弓の部隊が矢を高く放った。放たれた矢は大きく弧を描き、斉兵が恐怖に見上げる顔に降り注いだ。斉軍の後方部隊がまるで薙ぎ倒されたように矢に当たって倒れた。

「蔡信に敵の盾を打ち壊すように伝えよ」
 呉起の命令を聞いた伝令は蔡信のもとへ走った。
 呉起は太鼓や旗などの合図により各部隊が行動できるように訓練を徹底した。特に寡兵をもって大軍と戦う場合、作戦通りに部隊が動けることが勝利を左右した。

 魯の弓部隊の脇から斧を担いだ大男の部隊1千が現れ、斉軍の盾と兵士を打ち倒し、両軍の戦いが始まって以来、初めての血みどろの肉弾戦が繰り広げられた。

 魯軍1千の大男の振り下げる斧や鉞が斉兵の矛や戟を打ち砕き、血飛沫を上げて斉兵の首を打ち落とした。

 魯軍で鐘が鳴らされると大男達は斧や鉞を担いで先を争うように走り戻った。盾を壊された斉兵を魯の石弓部隊が狙い射った。やがて朝から石弓を撃ち続けている兵士の疲労が激しくなり矢の放たれる間隔が長くなっていた。

 斉軍の太鼓が打たれると兵が二つに別れ、間から百台近くの戦車が突然走り出して来て、
瞬く間に魯軍の石弓部隊の陣地に乗り入れ、それまでの恨みを晴らすように魯兵を薙ぎ倒した。

「よおし、今だ。退却させよ」
 斉軍の動きを見ていた呉起が命じると、旗が振られ太鼓が早打ちされた
 魯兵は我先にと退却を始めた。魯兵が雪崩を打つような退却を行うと、斉の左軍の戦車隊は追撃して矛で魯兵の首を次々と打ち落とした。

 やがて魯軍の退却に引き摺られるように斉軍の前線が間延びした。

「伏兵と本隊に攻撃の合図を送れ」
 呉起は作戦通り斉軍が間延びしたのを見計らって、太鼓を小刻みに打ち鳴らさた。

 小高い山の麓に伏せていた魯兵三千が、伸びきった斉軍を断ち切るように脇から攻撃をした。退却していた魯軍本体も矛を返すように態勢を変えて斉軍を挟み討った。

 太陽が傾き、夕闇が迫ってくると、両方の陣営から太鼓が打ち鳴らされて、双方陣を引いた。それまでの戦いが嘘のような静寂が訪れた。

 一日目は魯軍が大勝した。
「皆の頑張りで、なんとか今日一日の時間稼ぎは出来たな」
 呉起が溜息をつくように言った。
「一日中弓を射ていたので、弓部隊の者は腕が上がりません」
 李克は兵の情況を報告した。傷付いた兵士は少ないが、疲労で飯を食べる力もなく倒れ込むように寝ていた。
「明日戦いがあるとすれば、鄆の砦に籠城するしかないでしょう」

 魯軍は一軍しかない兵士が戦いに傷付き倒れ込むように寝ていた。斉は右軍左軍が傷付いていても中軍が無傷で残っていた。魯軍が明日戦へば兵力の差で無残にも負けることは間違いなかった。

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by shou20031 | 2005-02-06 16:18 | 中国歴史小説

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永遠の愛ってあるのだろうか
by shou20031
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