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中国歴史小説と幻想的な恋の話


「呉子」無敗の将軍 若き日の呉子 Vol.14 呉起将軍誕生

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「何故我々が稲を刈り取りに来る事がわかったのだ」
 里克(りこく)は鄆(うん)の城で傷の手当てを受けた後に呉起に尋ねた。完膚なき敗北に里克の頭は呆然自失状態であった。里克は何故負けたのかそれを知りたかった。
「斉の国の農作物の情況を調べました。魯の国のよりも旱魃が酷く、収穫が昨年の半分以下と報告を聞きました。領主としては不足分の穴埋めをしなければなりません。我々の収穫物が奪われると予想して対処していただけです」
「それにしても鮮やかな采配であった。我々は迎え撃たれるとは予想もしていなかった」
「それは、私が鄆の民を守る事しか考えていないからでしょう」
「私の村とは川を跨ぐだけなのになぜこれほど、稲の出来が違うのだろう」
「私は昨年から一度も兵を動かさず、田畑の治水事業を専らに行ったからです」
「そなたの徳は私の武に勝るようだ。これからは私も徳を積むようにしよう」
 里克はそう言うと納得したのか、傷を労わるように横たわって眠た。

 『鄆の守備隊、斉将里克を捕らえる』の知らせは曲阜の宮殿で瞬く間に噂となり呉起の名前が囁かれた。
 呉起は里克の傷が癒えると、捕虜として曲阜の宮殿に連行した。捕虜と言っても、大夫(貴族)である里克は縛られる事もなく馬車に乗って曲阜に向った。
 呉起の元公への戦勝報告に里克も捕虜として証言した。
「呉氏の徳は私の武威を上回ったのです」
 元公からなぜ負けたのかと問われて里克は答えた。元公の脳裏にいつまでも里克の言葉が残っていた。

 その後、斉の国に里克の身代金が請求されると、里克の一族によりただちに身代金は支払われ斉に帰国した。
 呉起は不作で困っている里克の砦に米五百石を贈った。里克がこれ以降二度と呉起の守る国境を侵すことはしなかった。

 呉起が曲阜から戻って李香と久しぶりに寝台をともにした。呉起が李香を抱き寄せると、何か言いたそうに恥らっていた。
「どうしたのだ」
「あの。お話があります」
「なんであろうか」
 呉起が早く話すように急かしても、なかなか答えなかった。
「子供が出来たようです」
「本当か。私も親になるのか」
 呉起はあまりの嬉しさに李香の体を強く抱いた。自分にも子供が出来ると思うと呉起の生活に新しい希望が生まれた。

 呉起は荒れている田畑を見つけては金を出して耕させ、新たに耕作地を開拓する者には開拓した土地の税を三年間免除した。更に華元に対して荒れている水路を整備させ、運送の便を良くさせた。

 その年の暮に李香は可愛い女の子を産んだ。
「男の子でなくて申し訳ありません」
 李香は嫡子とならなかった事を詫びた。
「そなたに似た可愛い子だ。男の子は次の楽しみとしよう」
 呉起は李香の枕元で寝ている子供の顔を見て言った。
「淑と命名しよう。呉淑良い名前だ」
 呉起はまだ目も開かない赤子を抱いて嬉しそうに言った。

 呉起が鄆に着任して五年で、斉と国境を接する他の街は度重なる争いで疲弊しているにも拘らず、鄆の街は豊かになっていた。
 魯の国の政治は三桓子(季孫氏、淑孫氏、孟孫氏)とその一族に専横され、元公さえも三桓子の意向には逆らうことが出来なった。元公は何とか三桓子の力を削ぐ大夫を捜していた。
 鄆を治めて五年呉起の評判は良くなるばかりだった。元公は呉起を曲阜に呼び、呉起の功労を賞して、新たな食邑を贈った。曲阜に屋敷を賜り小司寇(警察庁次官)となった。呉起は自分が三桓子に対抗する勢力の布石となったことは知る由もなかった。

 曲阜の街も帝丘と同じで度重なる戦の為か、やくざが多く治安が良くなかった。呉起は以前賊曹掾であった時の部下を集めて、曲阜の街の治安の維持に努めた。
 司寇である李遠は高齢で病気がちであった為、宮廷の閣議にも出席するようになり、呉起はしばしば元公から意見を聞かれた。

「斉の国が魯を攻めようとしています。張疋殿が斉の閣僚から直接聞かれたそうです」
 呉起が宮廷から戻ると、斉の張疋のもとで学問を学んでいるはずの許駿が旅装も解かないで待っていた。
「斉が魯を攻める理由は何なのだ」
「魯の盗賊が斉の国で荷駄を襲って魯の国へ逃げ込んでいると申し入れたにも拘らず、魯は一向に盗賊を討伐していないので、斉軍によって魯の盗賊の討伐する為に侵攻するそうです」
「私が小司寇に任命される前に、斉の司寇より魯の盗賊が斉で盗賊を働いておるので取り締まって欲しいと申し入れがあったと聞いている」
「魯の国は盗賊を放ち斉の富を奪っておると斉の田氏の一族田頼(でんらい)が騒いでいるのです。田頼は斉軍を動かして弱国魯を撃って己の名前を上げようとしているだけです。田頼は魯に攻め込める大義がれば何でもよいのです。田氏が宰相になって斉には人がいなくなったと、張疋殿は嘆かれていました」
 よほど根を詰めて学んだのか許駿は以前よりも痩せて精悍な顔となっていた。
「斉に使者を送っても無駄か」
「時間を稼ぐことが目的であれば」
「田頼の悪い噂を流す事で戦を防げないだろうか」
「既に斉の宮廷では魯を撃つことが決定されています。田頼が駄目なら新たな将軍が命じられるだけでしょう」
「斉軍の動員数はどのくらいになる」
「三軍が動員される予定です」
「攻撃の時期はいつ頃であろうか」
「収穫を終えた後ですから早くても十月末でしょう」
「あと三月か」

 呉起は翌日宮廷の閣議に出席する前に司寇の役所に出て、斉の宮廷内の間諜に対して斉軍の動向を知らせるように指示を出した。
「この秋に斉軍が魯を攻めると言う噂があります」
 呉起は許駿のもたらした情報を閣議で報告した。
「いい加減な噂を取り上げるな。斉が魯を攻める理由などない」
 宰相の季亮子が閣僚でもない呉起の発言を咎めるように言った。
昨年末斉が突然魯の国境を侵してきて、何とか城を一つ斉に譲る事で和睦したばかりであった。その交渉を行ったのが季亮子であった。

「昨年、斉の司寇より魯の盗賊が斉の国内で荷駄を奪って魯に逃げ込んでいるので捕まえ欲しいとの申し入れがありました。魯が盗賊を討伐しない為、依然斉の国内では盗賊が跳梁して入るので、斉は軍を派遣して盗賊を討伐すると言う名目です」
 呉起は顔色一つ変えず話した。
「言い掛かりも甚だしい。そもそもその盗賊は斉の国の盗賊だったと言うではないか。斉の国で荷駄を襲っている盗賊をどうやって魯の兵が捕まえるのだ」
 季亮子は怒りを呉起に向けて爆発させた。
「宰相が言われる通り、これは言い掛かりです。魯は斉の将軍達が名声を上げる猟場と化しております。この度は斉の宰相田荘子の一族田頼が己の名前を高めるために、魯を攻める理由を作り上げたのです」

「その噂は確かなのか」
 呉起と季亮子のやり取り聞いていた元公が言った。
「まず。間違いないと思われます」
 呉起の自信に満ちた言葉を聞くと閣僚達から思わず重いため息が吐かれた。
「呉起よ。田頼の率いる斉軍の兵数は」
「三軍と思われます」
「季亮子よ。今魯で集められる兵数はいくらだ」
「一軍がせいぜいかと」
 季亮子の声がだんだんと小さくなって行った。

「誰か。一軍で三軍を迎え撃つ者はいないか。和睦しても一城や二城を奪われるのだ。斉軍に勝った者には二城を贈るぞ」
 元公はそう言って閣僚達の顔を見た。しばらくの間、応える者はいなかった。
「我こそはと言う者はいないのか。ならば私が指名する者に指揮を執らせても文句はあるまいな」
 元公は再度念を押すように皆の顔を見廻した。やがて元公は呉起を見詰めた。
「それでは、呉起を将軍とする」
 元公はそう言うと閣議を終えた。閣僚達は驚きの声を上げる者と自分が指名されなかった事に安堵のため息をつく者と様々であった。呉起は雷に打たれたように席を立てずにいた。

 呉起は家に戻ると許駿を呼んだ。
「今日の閣議で私が斉軍を迎え撃つ魯の将軍に指名された。疲れているところ済まぬが、兵の質から輜重隊の数まで出来るだけ斉軍の情報を集めて来てくれ」
 呉起は許駿と部屋を出ると、家人を呼び集めた。
「今日、元公より斉軍を迎え撃つ将軍に指名された」
 呉起が感情を抑えた声で言うと、帝丘から一緒に来た者達が喜びの声を上げた。
「斉軍は三軍で攻めて来る。私に与えられる兵は一軍に過ぎない。誰かこの戦いを勝てる妙案を持つ者はいなか」
 呉起はそう言うと喜び叫んでいる友を静かに見つめた。
「これが私が将軍に選ばれた理由だ」
 呉起は呟くように付け加えた。呉起の言葉を聞くと皆が浮かれ喜んだ事を恥じて口を閉ざした。

「良く聞いてくれ、この度の戦いもこれまでの戦いもそれほど違いがあるわけではない。三倍の数の兵であろうが、恐れる事はないのだ。勝つ必要などない。負けなければ良いと思えば様々な作戦を考えられる。我々の勝手知る土地に踏み入る敵に一泡吹かせてやろうではないか」
 呉起は静かにではあるが自信を持って語った。
「船の事は俺に任せてくれ。真っ暗な夜でも敵の後ろに着けてやる」
 華元は呉起の話を聞いて仲間の船頭達と工夫した技を言った。
「弓に工夫を加えて、一度に二本の矢を飛ばせるようにしたぞ」
 李克は弓師達と工夫を加えた弓の事を言った。
「三軍だろうが、夜襲の噂を撒き、睡眠不足にして、戦う体力も気力も奪ってしまえば何万の兵も恐れることはない」
 超耳は噂を拾い集める仕事をしながら考えていた事を言った。
「体の大きな兵を集めて前面に出し、敵を恐れさすのはどうであろうか」
普段寡黙な蔡信までが意見を述べた。
「皆がそれぞれ新たな作戦を考える事が出来れば、我々は常に相手の目を惑わす変化に富んだ作戦を取れる。敵は何日もかけてやって来る。疲れさせ、戦に飽きさせてしまえば、我々の勝利だ」
 戦う集団が出来つつあった。呉起は若い時のように己の才に溺れず、皆の個性的な意見を纏めることにより、敵が予想もしない作戦を纏め上げようと考えていた。

「我々に勝利を」
 蔡信が立ち上がって大きな声で叫ぶと皆が一斉に声を上げた。
by shou20031 | 2005-02-04 20:37 | 中国歴史小説

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