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中国歴史小説と幻想的な恋の話


「呉子」無敗の将軍 若き日の呉子Vol.12 新たな道

「実は魯の司馬長史(国防次官)より曲阜(きょくふ)の街道の警備に関して意見を聞かせて欲しいとの言って来ているのだ。俺は貴人の前で話すのが苦手だから困っていたのだ。俺の代わりに話してもらえないだろうか」
「蔡信。これは仕官の話しだろう。どうしてもっと前に話さなかったのだ」
「おまえは学塾で忙しかっただろう。仕官と言っても下っ端役人だ。俺は面倒臭いことは苦手だからな。こう言う話しはやはりおまえに任せないとな」
 蔡信はこの話がいかにも面倒臭そうに言った。呉起は蔡信の思い遣りに自分の鬱屈していた気持ちが解けていくのに気がついた。
 これまでは呉起は自分の能力に人一倍の自信を持っていた。ところが、こうなって見ると、自分はいつでも周りの人間に支えられて来たことが痛いほどわかった。
 ほんの少し物覚えが良いのを鼻にかけた嫌らしい自分が見えて来て、己を恥じた。呉起は蔡信が下っ端役人と恥じる話に眼に溢れてくるものを堪えて有難く乗ることにした。

「蔡信殿に出来るのに、何故魯の国の兵隊では山賊、盗賊を取り締まれないのだと、曲阜の商人たちに責められて困っておる」
 呉起は蔡信と魯の司馬長史の孟牧(もうぼく)の屋敷を訪れた。
「魯の兵隊は盗賊を取り締まるのに、わざわざ前触れをしてるようなものだと商人に笑われました。確かに何度も取り締まりの部隊を派遣しても盗賊の被害は減らないのだ。蔡信殿は盗賊に詳しいところで、何か妙案はないだろうか」
  孟牧は魯の大夫には珍しく偉ぶることもせずに、年下の呉起らに気さくに話しを始めた。

「蔡信は話しが不得手なもですから、私から申し上げます。兵士には盗賊を取り締まろうとする強い気持ちがないからです。まず盗賊を捕まえた場合の恩賞を篤くすることでしょう。盗賊の情報提供者にも恩賞を与えることです。次にその情報を元に隠密行動を専門とする部隊で取り締まれば、ある程度の成果は得られるでしょう」
「さらに盗賊を一掃する為にはどうしたものだろうか」
「盗賊の出る場所は険しく、貧しい地域で、彼等はその土地を追われた流民達です。盗賊の出没する土地を調べ、税を軽くすることで、民が土地を離れる事を防ぐことが大切です。山賊、盗賊の数はその国の行政の表れです。民に篤くすれば少なく、過酷であれば、多くなります」
「つまり、魯の国に盗賊が多いのは政事が悪いからと言うのか」
 孟牧は呉起の言葉に僅かに顔色を変えた。

「いいえ、盗賊はただ取り締まるだけでは一掃する事が出来ないと申し上げているだけです」
「なるほど、そなたが盗賊を取り締まるとすればどうする」
「まず、盗賊を働いた者はただちに打ち首にして晒し、その罪の厳しい事を知ら示します。その次に、盗賊であっても情報を提供し悔い改めた者には恩賞を与えます。各街道筋に何名かの間諜を置いて、情報を集めれば盗賊は三年の内に半減するでしょう」
「蔡信殿、私の下で賊曹掾(ぞくそうのじょう)として仕えるつもりはないだろうか」
 賊曹掾とは魯の軍体内での盗みを取り締まる中士の役職だった。
「有難い申し出ですが、私は友である呉起の下以外では働くつもりがありません」
 それまで黙っていた蔡信が一言ずつ吐き出すように言った。
「蔡信を雇わんと思えば呉起を雇えか。改めて聞くが、呉起殿。私に仕えてみないか」
 呉起は学塾を破門されてことで、行政官としての夢を叶えることは出来なかったが、蔡信の力により、やがて大将軍と呼ばれる、軍人の道の第一歩を歩むことになった。

 呉起に与えられた兵士は僅かに一卒百名であった。
「まさか、こいつらで魯の国の盗賊を取り締まれと言うのか」
 蔡信は目の前にだらしなく並んでいる兵士を見て言った。
 呉起は賊曹掾として、各地を守る部隊に盗賊の情報を集める依頼をしたが、まったくと言って有力な情報は得られなかった。賊曹掾とは軍隊内部での取り締まる嫌われ役で、新任の賊曹掾に一体何が出来るのかと言う冷たい反応だった。

 呉起は超耳に盗賊の情報を集めさせ、華元と李克を両長として、蔡信による兵士の再訓練を手伝わせた。
 蔡信は格闘術の訓練と称して、部隊での喧嘩の勝ち抜き戦を行い、自分の強さを見せつけた。兵士達は蔡信の強さを目の当たりすると不本意でも命令に従うようになった。
 朝は日の出から夜は日が暮れるまでの激しい訓練に文句を言う気力も失って兵士達は倒れ込むように眠り込んだ。やる気のなかった兵士達の顔は、やがて日焼けした精悍な顔つきになっていた。

 呉起は蔡信が猛訓練を行っている間、孟牧と何度も打ち合わせを行い、盗賊を討果たした者に金百両、有力な情報をもたらした者には金五十両の賞金を与えると曲阜の城門に高札を掲げた。

「これより我々は盗賊の討伐に向う。すでに高札を見た者もいると思うが、盗賊に懸けられた賞金は我々が討ち果たした場合でも支払われる」
  呉起が賞金の事を伝えると蔡信に鍛え直された兵士達は目を輝かせて、喜びの声を上げた。

  荷駄の警護で通いなれた曲阜から臨淄への街道の盗賊を討伐する為、密かに街道筋の山岳地帯に潜伏して、僅か百人の部隊で盗賊を討伐した。
  囮の荷駄を用いて盗賊を待ち伏せしたり、夜間真っ暗な獣道を這いずるようにして盗賊のねぐらを襲った。軍服は血と汗にまみれ異臭を放っていたが、呉起の心は儒学を学んでいた時の迷いは消え去っていた。
  毎日戦う事に疲れて倒れるようにして眠る事に満足していた。やがて盗賊達も追われている事に気付き、罠を仕掛けたり、待ち伏せ攻撃をして来た。呉起は盗賊達との戦いで傷付いた者の手当てをしたり、歩けない兵士を背負い、険しい山岳地帯で戦い抜いた。

  三ヶ月後、曲阜の城門の前では捕らえた盗賊の首が役人の手で次々と打ち落とされた。街の人々は城門に晒された余りにも多くの首に恐怖した。やがて曲阜の街では盗賊を討ち取った賊曹掾の呉起の名が有名となった。

  盗賊との激しい戦いに勝利した呉起の部下達は、手にした賞金で浴びるように酒を飲み、かつては嫌われ者だった自分達の部隊の名を誇らしく叫んでいた。
  呉起は盗賊を掃討した功績に対して賊曹掾から参軍に昇進した。中士から上士となったが、部下は僅かに一卒増え二百名だけであった。呉起は一層兵を鍛錬し、能力の高い人材を昇格させ、隊内の身分制度を明確にし、命令の伝達を徹底させ、賞罰の基準を明確にした。

  半年後、曲阜と衛の都、帝丘を結ぶ街道筋の盗賊達の夥しい首が打ち落とされ、城門の前に晒された。曲阜の人々は晒し首を見る事に飽き、呉起の名前に震えた。
  一年後、宋の都、商丘を結ぶ街道筋の盗賊達が捕らえられ、城門の前に首を晒された。呉起は賊曹掾に就任して僅か一年で曲阜からの主要な街道筋の盗賊を討伐してしまった。曲阜の街で呉起の名を知らぬ者はいなかった。

「これほどに盗賊を討伐してくれるとは思わなかった。曲阜の街でそなたの名前を聞かぬ日はない」
  孟牧は呉起と蔡信を屋敷に招いて歓待した。
「今では兵士達は盗賊を討伐する事に対して誇りを持っています」
  呉起は最悪の兵士を与えられた皮肉を言った。
「良い知らせだ。そなたの名を元公が耳にされたらしく、斉の国境に近い鄆(うん)の街の大夫に命じるようにとお言葉があって、そなたに親問が行われる事になった」
  鄆の街は斉との国境にあり斉兵との争いの耐えない街であった。盗賊の討伐に功績のあった呉起に、守るに難しい鄆の街の大夫にとは妙案であった。士まで給与は穀物で支給されるが、大夫となると禄高に合わせた食邑が与えられる。例え下大夫といえども呉起は初めて領主となった。
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by shou20031 | 2005-02-02 21:10 | 中国歴史小説

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by shou20031
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